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BOIを中心とした外資政策

  タイの経済発展において外貨が果たしてきた役割は大きく、外貨政策はタイ国の経済および産業政策の重要な柱となってきた。ただし、タイ政府の外資に対する姿勢は、当初から開放的であった訳ではなく、その時々の内外の経済情勢などを反映して変遷してきた。

  タイの外貨政策は、1970年代前半のナショナリズムの高揚に伴う制約的姿勢への揺り戻しが見られた時期を除き、基本的にはBOIを中心に外資の積極的な導入を図ってきた。

  1980年代前後半以降は、高度経済成長の下、タイ向け投資が急増し、国民所得も向上した。しかし他方で、地域間の所得格差の拡大、インフラの未整備や技術者(エンジニア)等の人材不足といったボトルネックの発生、エネルギーや環境問題などの経済および社会問題が顕在化といった問題が起こった。その結果、投資政策においても量的拡大から質的拡充への転換、インドシナ等の近隣諸国への投資支援など、多面的な政策展開が求められた。

  1997年のタイに端を発したアジア通貨・経済危機時には、経済困難克服のための緊急的な支援とともに、競争力向上のための中長期的視野に立った産業構造調整が必要とされた。

アジア通貨・経済危機後の新たな対応

  1997年7月のバーツの為替変動相場制移行に端を発した、いわゆるアジア通貨・経済危機に伴い、タイ政府はIMFの指導の下で経済構造調整に取り組むことになり、輸出不振、景気低迷、外貨流出といった事態に外貨政策も新たな対応を迫られた。

  まずは緊急の課題として、流出する外貨を抑え蓄積を図るため、輸入代替産業の支援、高付加価値産業の支援などが掲げられた。特に国内産業の資金繰りが困難になったことから、外国資本の出資比率規制を緩和し、タイ側株主の同意が得られることを条件に、外資が資本の多くを持つことを認めた。また、輸出振興策として、輸出を主体とする生産事業については、輸出比率による原材料・資材の輸入関税免除制限の撤廃などを実施した。

  その後、経済危機からの回復が見られる最中、BOIは投資奨励策の改正作業を進め、 2000年8月より新投資奨励策を実施している。この新投資奨励策は、産業の国際競争力の向上、地方開発の推進、税制面での恩典付与の適性化などを目的としている。また、新投資奨励策は、外国企業の出資比率規制の緩和(製造業については、立地に関係なく外資100%を認める等)、恩典付与のための輸出比率規定の撤廃、投資奨励地域のゾーニング調整、ISO等の国際基準の取得などを盛り込んでいる。外国人事業法の改正も実施され、外国企業に対する規制業種は従前の63業種から43業種に縮減され、2003年3月より施行されている。

デュアル・トラック政策と投資優先5分野

 経済危機以降低迷していたタイへの直接投資が近年回復傾向にある背景には、外資誘致と内需振興・輸出拡大の両面から経済活性化を狙う、タイ政府の「デュアル・トラック(Dual Track)政策」に基づく、海外投資誘致策が大きく影響している。

 タイ政府は、外国人事業法により外資の参入業種を規制して自国の産業を保護する一方で、その参が自国経済、産業に対してメリットになる特定の業種については、ある一定条件の下、諸税の減・免税、外国人労働許可、土地の所有などを認める恩典を与えて、外資を誘致する政策をとっている。

 2001年2月のタクシン政権発足以降、BOIは欧州、アジア地域(日本・中国を含む)、北米をマーケティングの中心とし、ミッション派遣を含む、様々な投資誘致活動を展開してきた。それと同時にタイ政府は、特に (1) 自動車・自動車部品産業、(2) 農業・農業加工品産業、(3) 情報通信(技術)産業(エレクトロニクスを含む)、(4) ファッション(服飾)産業、(5) 高付加価値サービス産業 を、5つの戦略的投資優先分野(ターゲット産業)として指定し、これらの産業に関連する投資に対して手厚い投資恩典を付与している。また、特定の産業グループの競争力を強化するため、一定の業種については投資ゾーン規制を緩和する方針を打ち出している。

  2001年以降、中国投資の増大に対する危機感と自国の競争力に向けて、新たな海外投資誘致策が打ち出されている。近年のタイへの投資額の回復は、中国への投資の集中からのリスク分散という側面以外にも、これらの海外投資誘致策が着実に功を奏しているものと考えられている。

  2004年当初からは、重点産業全体の発展を重視した投資奨励策に加え、産業高度化、競争力強化の基盤となるSTI(Skill, Technology & Innovation)をさらに発展させるため、研究開発事業や人材開発事業に対する投資奨励策も進めている。BOIは幅広い産業分野において多くの規制緩和策、投資優遇措置を次々と打ち出しており、今後も外資誘致策を一積極化していく姿勢を示している。

  WTOやAFTAの展開、中国への投資の集中など、世界的な投資環境の変容のなか、従来のゾーン制をベースに税制度を中心としたインセンテンティブを供与することによって投資を促進するという外資政策のあり方についても転換期を迎えている。その結果、タイ国にとっての戦略産業への外国投資優遇、STI促進、地域別産業誘致など、新たなステップへ移行し始めている。ただし、タイ経済の持続的な成長を高め、発展を支える上で、外資の担う役割は引き続き重要である、と考えられている。

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