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タイ経済の成長率 2013年は2・8%に低下 2014年の予測値は4%前後

 タイは反政府デモが長期化する政治的不確実性の中で、二〇一四年を迎えた。プアタイ党政府は下院を解散したが、最大野党の民主党は総選挙のボイコットを決定。反政府デモ隊は一月一三日からのバンコク封鎖を宣言しており、二月二日投開票の総選挙が実施されるのか、実施されたとして新政権が発足できるのかどうかも定かでない。そうした中、タイ経済は政治緊張の高まりによる不安を抱えながらも、一三年に比べると上向く見通しとなっている。世界経済の回復が輸出を後押しするからだ。一三年の経済成長率は3%増に届かない見通しとなっているが、一四年は3・5~4・5%増の成長が期待されている。

 財務省財政局のソムチャイ・サッチャポン局長が一二月二六日に明らかにしたところによれば、二〇一三年の経済成長率は2・8%増程度にとどまる見通しで、一二年の6・5%増を大きく下回る。財政局は九月時点で、一三年の成長率を3・7%増と予測していたが、大幅な下方修正を余儀なくされた。国内需要の反動減は予想以上に大きく、物品輸出の回復は期待よりも遅れている。民間消費は0・4%増程度にとどまる見通し。耐久財、特に自動車の購入需要が鈍っている。ただし非耐久財とサービスの支出は拡大している。一方、一三年の民間投資は0・3%減と予測されている。洪水被害を受けた機械の更新などで一二年に設備投資が急増していた反動によるところが大きい。また事業者の信頼感が低下した結果、民間部門の投資活動が鈍化した。しかし建設投資は、国内セメント販売量の増加に見られるように順調に拡大している。一三年は政府支出も収縮した。政府消費支出は通年で5・6%増となるが、投資支出は4・1%減。予算消化の遅れによるもので、特に地方自治体の予算執行の遅れが目立った。このほか治水プロジェクトの予算執行も遅れた。

 対外需要に関しては、物品・サービス輸出は前年比4・1%増と見込まれている。外国人観光客数増によるサービス輸出の成長が寄与している。一三年は特に中国、ロシアからの観光客が増加した。しかし物品輸出は0・6%減と収縮に転じたもよう。世界経済の回復が遅れた結果、商品需要に影響が及んだ。加えて水産品の輸出が、エビのEMS(早期死亡症候群)流行により落ち込んだ。一方、物品・サービス輸入は2・9%増と、前年に比べて減速した。消費と投資の双方での国内需要の鈍化が響いている。

 一三年の経済安定性に関しては、一般インフレ率は2・2%で、前年に比べて低下した。民間需要の鈍化によるデマンドプルのインフレ圧力の低下と世界市場の需要鈍化による原油・商品価格の下落、さらには政府部門による燃油小売価格抑制政策が寄与している。失業率は0・7%。対外安定性に関しては、経常収支は62億ドル、GDP比1・6%の赤字が見込まれている。外資系企業による利益・配当の本国送金が高水準となったことに加え、貿易収支の黒字幅が52億ドルと前年を下回る水準にとどまることが一因。

 一四年に関しては、経済成長率は3・5~4・5%増となる見通し。中間値で4・0%増となるもので、3か月前の財政局の予測値の5・1%増を下回る。政府投資支出が当初予想された水準を下回る見通しとなっていることが大きな理由となっている。特に治水プロジェクトと運輸インフラ開発プロジェクトが当初見込みよりも遅れる見通しとなっている。このほかに下院解散も政治空白を生み、政府の投資予算の消化が遅れることになる。一四年の政府消費支出は2・1%増、政府投資支出は13・2%増と予測した。

 タイ経済の成長を支えるのは貿易相手国の景気回復。これが輸出の成長を後押しする。物品・サービス輸出は一三年から伸びが加速し、7・0%増が見込まれている。中国経済は金融システムの安定性に対する調整期にとどまるものの、米国経済が雇用の拡大にともない上向くほか、日本経済も成長が加速する見通しとなっている。またサービス輸出も外国人観光客数の増加にともない引き続き成長する見通しとなっている。このほかに民間消費も伸びが加速する見通し。雇用が高水準を保つことと金融緩和によるもので、民間消費の伸びは2・8%増と予測した。同様に民間投資も顕著に回復する。成長率は7・0%増と予測されている。労働力不足に対処するための生産構造調整の投資が急務となっていることや投資委員会(BOI)への投資申請や、投資奨励証発行ベースの投資プロジェクトが高水準を維持していることが支援材料となっている。物品・サービス輸入は4・4%増が見込まれている。民間支出の伸びが加速し、輸出が回復することに一致した動き。

 経済安定性に関しては、一四年の一般インフレ率は1・9~2・9%増の間と予測されている。国内需要の拡大でインフレ率は上昇する見通し。世界市場の原油価格は横ばいの見込み。失業率は0・7%。対外安定性では、経常収支は44億ドル、GDP比1・0%の黒字が見込まれている。貿易収支は、輸出の伸びが輸入のそれを上回りそうで、89億ドルへと黒字幅が拡大する。

 ソムチャイ財政局長は、新政権が早期に発足すれば、政治空白による政府支出への影響は最小限に抑えられ、一四年通年の経済成長率は4・0%増を維持することが可能と見ている。三月初めに新政権が発足し、2兆バーツの運輸インフラ・プロジェクトの予算執行が年央にも始まることが前提。

 これに対し、タイ中央銀行のマティ・スパーポン・マクロ経済・金融政策担当シニアダイレクターは、政治的不確実性による信頼感の低下と下院解散にともなう政治空白による政府投資支出の遅延から、一四年の経済成長率予測の下方修正を検討していることを明らかにしている。タイ中銀が一三年一〇月に発表した一四年の経済成長率予測は4・0%増。国家経済社会開発委員会(NESDB)事務局が二月一七日にも一三年最終四半期と通年のGDP成長率を発表するのを待って、一四年の経済予測を見直すことにしている。

 アーコム・トゥームピタヤーパイシットNESDB事務局長は、タイの産業が労働力不足、賃金上昇、インフラ投資の遅延、教育の質の悪さとエネルギー輸入コストの上昇から競争力を失いつつあると警笛を鳴らしている。少子高齢化の進行で、高齢社会が目前に迫り、労働人口は減少をたどる。しかも労賃は他のASEAN諸国との比較で相対的に高水準にある。近年の政治不安から、インフラ投資が遅れていることも競争力低下の要因になっている。教育の質はASEAN域内との比較でも低いレベルにとどまる。また国内の原油、天然ガスの可採埋蔵量は乏しく、エネルギー輸入コストがますます重荷になってくる。

 アーコム事務局長は、タイの研究開発分野への投資がGDP比0・2%と、マレーシアの1・8%、シンガポールの2・8%、中国の1・8%、日本の3・4%、韓国の3・8%と比べて極めて低水準にとどまっていることを指摘。成長ポテンシャルの高いクリーン・エネルギー、ヘルスケア、バイオ・プラスチックなどの分野で研究開発の強化が必要だとしている。



日付 : 2014年01月06日

By : 週刊タイ経済

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