タイ中銀の金融政策委員会 0.25%幅の政策金利引下げを決定
タイ中央銀行の金融政策委員会(MPC)は五月二九日、政策金利を0・25%幅で引き下げて、年2・75%から2・50%に改めることを全会一致で決定し、即時実施した。MPCの書記を務めるパイブーン・キティシーカンワーン総裁補は会合後、今年第1四半期(一~三月)の経済成長率が予想を下回ったことを強調。成長鈍化は国内需要の減速によるもので、今後の経済のモメンタム(勢い)にも影響が及ぶ可能性があるとした。
MPCは四月に開いた前回会合では政策金利を据え置いていた。金利据え置きは4会合連続となっていた。この時点では、MPCは経済成長よりも個人ローンの急増のほうを強く懸念していた。しかし国家経済社会開発委員会(NESDB)事務局が五月二〇日に発表した第1四半期のGDPは、季節調整済みの前四半期比で2・2%収縮している。前年同期比で5・3%増となったのは、前年同期がまだ洪水被害からの復興期にあたり、ベース値が低かったローベース効果によるところが大きい。第1四半期の消費支出は4・2%増にとどまった。しかも支援要因は、すでに昨年末に打ち切られている初めての新車購入に対する税還付措置の納車が進んでいることで、やがてこの政策効果は消えてなくなる。中銀は第2四半期に消費、投資と輸出が一段と減速する可能性もあると見ている。
一方、財務省財政局のエカニット・ニティタンプラパート次長は三一日、第2四半期の景気の一層の減速を予想していることを明らかにし、財政局の一三年通年の経済成長率予測の下方修正を示唆している。
中銀が五月三一日に発表した月例経済金融報告によれば、足元の景気は目に見えて減速している。とくに民間支出の不振と工業生産の収縮が響いている。四月の民間投資指数は前年同月比1・1%減、民間消費指数は同1・7%増に鈍化した。また工業生産指数は同3・8%収縮した。四月には経常収支が33億6100万ドルの赤字となり、九五年以降の単月の経常赤字で最大となった。貿易収支が16億2000万ドルの赤字となったほか、サービス・所得・移転収支は17億4200万ドルの赤字となった。
タイ中銀は、民間需要の減速をある程度は想定していたが、予想以上に落ち込んでいる。中銀の見立てでは、年上半期に民間需要は徐々に減速するが、下半期には政府支出が穴埋めする予定だった。下半期に景気へのプラスの寄与を期待する政府部門の大規模インフラ投資の予算執行が遅れた場合、一三年の経済成長率は潜在力を下回る可能性がある。また年後半に経済成長への寄与度を高めると期待されている輸出も先行きに不透明感が漂う。域内経済、とくに中国経済の成長が鈍化していることは今後のタイの輸出に大きなリスクになる。
MPCは今年のタイの経済について、良好な経済ファンダメンタルズを背景に全体として成長を続けると見ているが、第1四半期の成長率が予想を下回ったこと、インフレ率がまだ目標範囲内にとどまっていることから、国内需要の成長に対するリスクを減らすために追加の金融緩和が適当と判断した。ただし貸出や家計債務がなお高水準で伸びていることを踏まえて、金融の安定に対するリスクがあることを理由に利下げ幅は0・25%にとどめることにした。パイブーン総裁補は、MPCが今後もタイ経済の状況と金融の安定に対するリスク、さらにはキャピタルフローの動向を密接に監視し、状況に適切な政策に取り組む用意があると述べている。
この日のMPCによる利下げ決定と、0・25%の下げ幅は市場の大方の予想どおり。MPCの委員でもあるポンペン・ルアンウィラユット中銀副総裁は前日の談話で、第1四半期の成長率の低下を受け、成長を刺激する必要があると述べ、利下げを示唆していた。またマティ・スパーポン中銀マクロ経済・金融政策担当シニアダイレクターは、MPCが今年第1四半期の経済成長率を7・1%増と予測していたことを明らかにし、NESDB発表値との隔たりの大きさに驚いているとコメントしていた。
タイ商業会議所のイサラ・ウォンクソンキット会頭は、利下げの心理的な効果は大きいと述べている。利下げ決定はポジティブなシグナルを送り、経済成長を下支えするほか、バーツ高の抑制にもつながるとしている。タイ上場企業協会のチャニン・ウォンクソンキット会長は、二九日の会合前からのバーツ安に関し、利下げ観測によるところが大きいと述べている。また米国経済の回復が顕著なことで、量的緩和策の規模縮小が予想されていることは、タイに流入していた海外投資マネーの流出を促し、バーツはさらに安くなる可能性があると述べている。
タイ銀行協会(TBA)の会長行であるバンコク銀行のチャートシリ・ソーポンパニット頭取は、自行の資金流動性や競争もまた考慮する必要があるとしながらも、政策金利に一致した金利の調整を検討していると述べている。金利調整は数日内に決めるとしている。一方、サイアム商業銀行のカンニカー・チャリタポーン頭取は、今年一~四月の銀行貸出が12%増と健全な伸びを示していることを指摘。利下げで先陣をきるつもりはないとコメントしている。
キティラット・ナ・ラノーン副首相兼財務相はこれより前、MPCに対し0・5%幅以上の利下げを期待するとしていた。同副首相は、バーツ高対策を目的とした大胆な利下げを求めてきた。中銀が利下げの理由として景気の減速を強調しているのは、通貨政策のツールに政策金利を用いるべきではないとの中銀の主張を押し通す意図がありそう。また下げ幅を0・25%にとどめたのは政府への抵抗の意味もありそうだ。ポンペン副総裁は、第1四半期の景気動向はさえないが、経済成長に対する支援要素はまだ多く残っていると主張している。パイブーン総裁補は二九日、バーツの値動きは金利とは関係がないと語っている。
キティラット副首相は二九日、MPCによる0・25%幅の利下げ決定について「ツーリトル、ツーレイト(少なすぎる、遅すぎる)」としたものの、何もしないよりはましだと述べ、一定の評価を下している。またバーツ相場が30バーツ台まで戻したことについては、輸出に脅威にならないレベルだとして、現状に満足していることを示している。米国経済はここに来て上向きつつあり、ドルの上昇が予想されているため、バーツ相場は目先、30・5バーツ台まで下がるとの見方をするアナリストや市場関係者が多い。
日付 : 2013年06月03日
By : 週刊タイ経済
MPCは四月に開いた前回会合では政策金利を据え置いていた。金利据え置きは4会合連続となっていた。この時点では、MPCは経済成長よりも個人ローンの急増のほうを強く懸念していた。しかし国家経済社会開発委員会(NESDB)事務局が五月二〇日に発表した第1四半期のGDPは、季節調整済みの前四半期比で2・2%収縮している。前年同期比で5・3%増となったのは、前年同期がまだ洪水被害からの復興期にあたり、ベース値が低かったローベース効果によるところが大きい。第1四半期の消費支出は4・2%増にとどまった。しかも支援要因は、すでに昨年末に打ち切られている初めての新車購入に対する税還付措置の納車が進んでいることで、やがてこの政策効果は消えてなくなる。中銀は第2四半期に消費、投資と輸出が一段と減速する可能性もあると見ている。
一方、財務省財政局のエカニット・ニティタンプラパート次長は三一日、第2四半期の景気の一層の減速を予想していることを明らかにし、財政局の一三年通年の経済成長率予測の下方修正を示唆している。
中銀が五月三一日に発表した月例経済金融報告によれば、足元の景気は目に見えて減速している。とくに民間支出の不振と工業生産の収縮が響いている。四月の民間投資指数は前年同月比1・1%減、民間消費指数は同1・7%増に鈍化した。また工業生産指数は同3・8%収縮した。四月には経常収支が33億6100万ドルの赤字となり、九五年以降の単月の経常赤字で最大となった。貿易収支が16億2000万ドルの赤字となったほか、サービス・所得・移転収支は17億4200万ドルの赤字となった。
タイ中銀は、民間需要の減速をある程度は想定していたが、予想以上に落ち込んでいる。中銀の見立てでは、年上半期に民間需要は徐々に減速するが、下半期には政府支出が穴埋めする予定だった。下半期に景気へのプラスの寄与を期待する政府部門の大規模インフラ投資の予算執行が遅れた場合、一三年の経済成長率は潜在力を下回る可能性がある。また年後半に経済成長への寄与度を高めると期待されている輸出も先行きに不透明感が漂う。域内経済、とくに中国経済の成長が鈍化していることは今後のタイの輸出に大きなリスクになる。
MPCは今年のタイの経済について、良好な経済ファンダメンタルズを背景に全体として成長を続けると見ているが、第1四半期の成長率が予想を下回ったこと、インフレ率がまだ目標範囲内にとどまっていることから、国内需要の成長に対するリスクを減らすために追加の金融緩和が適当と判断した。ただし貸出や家計債務がなお高水準で伸びていることを踏まえて、金融の安定に対するリスクがあることを理由に利下げ幅は0・25%にとどめることにした。パイブーン総裁補は、MPCが今後もタイ経済の状況と金融の安定に対するリスク、さらにはキャピタルフローの動向を密接に監視し、状況に適切な政策に取り組む用意があると述べている。
この日のMPCによる利下げ決定と、0・25%の下げ幅は市場の大方の予想どおり。MPCの委員でもあるポンペン・ルアンウィラユット中銀副総裁は前日の談話で、第1四半期の成長率の低下を受け、成長を刺激する必要があると述べ、利下げを示唆していた。またマティ・スパーポン中銀マクロ経済・金融政策担当シニアダイレクターは、MPCが今年第1四半期の経済成長率を7・1%増と予測していたことを明らかにし、NESDB発表値との隔たりの大きさに驚いているとコメントしていた。
タイ商業会議所のイサラ・ウォンクソンキット会頭は、利下げの心理的な効果は大きいと述べている。利下げ決定はポジティブなシグナルを送り、経済成長を下支えするほか、バーツ高の抑制にもつながるとしている。タイ上場企業協会のチャニン・ウォンクソンキット会長は、二九日の会合前からのバーツ安に関し、利下げ観測によるところが大きいと述べている。また米国経済の回復が顕著なことで、量的緩和策の規模縮小が予想されていることは、タイに流入していた海外投資マネーの流出を促し、バーツはさらに安くなる可能性があると述べている。
タイ銀行協会(TBA)の会長行であるバンコク銀行のチャートシリ・ソーポンパニット頭取は、自行の資金流動性や競争もまた考慮する必要があるとしながらも、政策金利に一致した金利の調整を検討していると述べている。金利調整は数日内に決めるとしている。一方、サイアム商業銀行のカンニカー・チャリタポーン頭取は、今年一~四月の銀行貸出が12%増と健全な伸びを示していることを指摘。利下げで先陣をきるつもりはないとコメントしている。
キティラット・ナ・ラノーン副首相兼財務相はこれより前、MPCに対し0・5%幅以上の利下げを期待するとしていた。同副首相は、バーツ高対策を目的とした大胆な利下げを求めてきた。中銀が利下げの理由として景気の減速を強調しているのは、通貨政策のツールに政策金利を用いるべきではないとの中銀の主張を押し通す意図がありそう。また下げ幅を0・25%にとどめたのは政府への抵抗の意味もありそうだ。ポンペン副総裁は、第1四半期の景気動向はさえないが、経済成長に対する支援要素はまだ多く残っていると主張している。パイブーン総裁補は二九日、バーツの値動きは金利とは関係がないと語っている。
キティラット副首相は二九日、MPCによる0・25%幅の利下げ決定について「ツーリトル、ツーレイト(少なすぎる、遅すぎる)」としたものの、何もしないよりはましだと述べ、一定の評価を下している。またバーツ相場が30バーツ台まで戻したことについては、輸出に脅威にならないレベルだとして、現状に満足していることを示している。米国経済はここに来て上向きつつあり、ドルの上昇が予想されているため、バーツ相場は目先、30・5バーツ台まで下がるとの見方をするアナリストや市場関係者が多い。
日付 : 2013年06月03日
By : 週刊タイ経済