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日照りと雨季入りの遅れで水危機 少雨予報で深刻な水不足懸念

 プラユット首相は六月一六日、稲作農家に対し、乾季作米の作付けを減らすか止めるよう呼びかけた。また年度米も田植えの時期を遅らせるよう呼びかけている。バンコク以南では連日のように降雨があるものの、大規模ダムが集中する北部は降雨量が不足しており、中部のチャオプラヤ・デルタでは深刻な旱魃が発生している。

 内務省防災局の報告によると、六月一八日現在、旱魃被害が発生しているのは24県の181郡1042タムボン(区)の9525か村。全国7万4965か村の12・71%に被害が発生していることになる。北部ではチェンマイ県が25郡すべてが旱魃被害発生地域に指定されている。このほかナコンサワン県、ピッサヌローク県、ウタラディット県、ターク県、ピチット県、ナーン県が東北地方ではナコンラチャシマ県、コンケン県、チャイヤプーム県、サコンナコン県、アムナートジャルン県、スリン県で旱魃被害が発生している。中部地方ではサラブリ県、ロッブリ県、チャイナート県、ラチャブリ県、カンチャナブリ県、プラチュアップキリカン県、プラチンブリ県に被害が出ている。東部ではサケーオ県、トラート県、南部ではトラン県、ナコンシタマラート県に被害が出ている。

 三月一七日現在、全国12か所の主要ダムの貯水量は325億2700万立米で、貯水能力全体の46%を占めているが、実際に使える水量は90億2400万立米に過ぎず、貯水能力の19%にとどまっている。プミポン、シリキット、シリントン、ワチラロンコン、パーサック・チョラシット、クンダーン・プラカンチョンなどの主要ダムの利用可能水量はすでに貯水能力の1割を切っており、現在、タイが直面している旱魃の激しさを反映している。最大の貯水量を誇るプミポン・ダムの利用可能な水は先週半ばの時点で3億6300万立米となっており、貯水能力の4%に過ぎない。また2番目に大きいシリキット・ダムも利用可能な水量は6億9700万立米で10%に過ぎない。それにもかかわらず差し迫った水不足に対する危機感は乏しく、ここに来て首相や農業大臣、内務大臣が繰り返し警告を発している。プラユット首相は、日照り続きで主要河川の水量が細り、ダムの水が枯渇している現状を示す一方で、旱魃被害の軽減と影響を受けている者に対する援助の取り組みに全力を挙げていることを示し、農民などに抗議行動を起こさないよう求めている。

 主要ダムの水量不足を農業・協同組合省灌漑局が警告する中、ピティポン・プンブン・ナ・アユタヤ農業・協同組合相は六月一五日、チャオプラヤ水系の水田地帯340万ライの農地への水の供給は収穫期まで維持することができるとコメントした。しかし気象局は雨季入りが七月終わり頃にずれ込むと予報しており、22県の400万ライの水田は田植えの時期を遅らせる必要がある。ピティポン大臣は、農家に耕作開始を思いとどまらせるよう、政府機関に協力を要請するとともに、水門の警備での協力を陸軍に求めている。ピティポン農相は、給水制限による農民間の対立や水の奪い合いを望んでいないと述べている。

 プラユット首相は、やや誇張した表現で、主要ダムはすっかり干上がり、コメを栽培するための十分な水がないと語っている。農業省は、水の状況を農家に伝えるため、中部22県の知事への説明を行なっているところで、旱魃問題に対処するための至急の手段についても議論している。

 農業・協同組合省はチャオプラヤ流域の125万ライの水田を調査し、稲作を止めてメイズ栽培などへの転作や、家畜の飼養に転換するよう指導している。ラーサック・リアオトラクンパイブン農業経済事務局長は、旱魃の被害総額は600億バーツに達すると警告している。

 サンサーン・ケーオガムヌート政府副報道官は、水不足危機は、タイ人全員が協力しなければならないと述べ、大量の水を使う個人宅のプールの水の入れ替えの自重など節水を呼びかけている。雨季入りの遅れによる水危機で、灌漑局の用水管理の稚拙を非難する声が挙がっている。灌漑局は二〇一一年の大洪水被害を受け、雨季におけるダムの貯水能力に余裕をもたせるため乾季の放水量を増やしてきたところに雨季入りが遅れたことで放水余力を失っている。大洪水以降のここ数年は少雨が続いているものの、灌漑局のオペレーションは洪水防止を優先するものとなっているため、ターク県のプミポン・ダムとウタラディット県のシリキット・ダムの貯水量は乏しいものになっている。気象局によれば、エルニーニョ現象の発生で、今年の東南アジアは少雨になる可能性が濃厚となっている。

 タイ水パートナーシップのハンナロン・ヤオワラート会長は、灌漑局や他の治水担当機関は、洪水防止だけでなく、水消費のセキュリティも重視するものへと治水政策を再考するべきだと主張している。激しい洪水の再来を恐れるあまり、毎年深刻な旱魃被害を引き起こすのでは元も子もないとしている。

 灌漑局は、旱魃の発生を受け、用水管理を誤ったことを認めている。同局は幹部が勢ぞろいしてシリキット・ダムで、タイの雨の神様であるプラ・ピランに雨乞いする儀式を催したばかり。しかし気象局は今年三月頃からのエルニーニョの影響は半年以上続くとしている。七月の後半までには雨季が始まるが、全国の雨量は例年よりも10%ほど少なくなる見通し。農業省はこの三月から5つの地方で人工雨オペレーションを実施している。

 農業経済事務局は旱魃の影響を考慮して、農作物分野のGDP成長率を2・5~3・0%増から1・45%増に下方修正した。同事務局はコメの収量の減少から5%白米の価格が1トンあたり8500バーツに上昇すると予測している。年度米の収量は籾ベースで正常なレベルの2700万トンを下回る2500万トン程度にとどまる見通し。ベトナムなどの主要コメ生産国が旱魃のためコメ輸出を減らしそうで、世界のコメ在庫は減少すると予測されている。


日付 : 2015年06月22日

By : 週刊タイ経済

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