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中銀月例経済金融報告 景気回復の兆し 五月の工業生産と民間支出が改善

 タイ中央銀行が六月三〇日に発表した月例経済金融報告によれば、タイ経済は上向き始めている。タイ中銀のドン・ナコンタップ経済政策担当ダイレクターは、月例経済指標の発表会見で、五月の経済指標が前月で改善したのは政変を反映したものではないと述べている。政変から派生する効果が現われるのは六月の数値以降になるため。五月二二日のクーデタによる政治危機の収束を経て、六月には軍政による矢継ぎ早の対策の結果、政府支出は加速し、物価上昇の抑制などで民間部門の信頼感は改善に向かっている。(3面に関連記事、18~19面に中銀データ)

 タイ中銀が示したのは、タイの経済は第1四半期中に大底を打ち、政治混乱が続いていた中でも緩やかな回復軌道にあったという見方で、政変による政治混乱の収束が回復のペースを加速させると見ている。なかでも民間消費、民間投資、政府支出は経済の推進力としてのポテンシャルが回復しつつある。

 中銀は今年上半期のGDPが前年同期比0・5%減になると予測。第2四半期(四~六月)も前年同期比でマイナス成長が続くと見ているが、四、五月期の経済指標が前月比で上向きつつあることから、季節調整済みの前四半期比ではマイナス成長に陥ることはないと見ている。第1四半期(一~三月)のGDPは前四半期比で2・1%減になっている。一般にGDPが2・四半期連続で前四半期比マイナス成長になると、景気後退(リセッション)となるが、中銀スポークスマンのルン・マリカマート女史は、そうした事態にはならないと述べている。

 中銀は最新予測で今年の経済成長率を1・5%増と予測している。3か月前に予測した2・7%増を大幅に下回るものとなっているが、ルン女史は、第1四半期に予測を大幅に上回るマイナス成長となったことを考えると、妥当なV字回復と考えられるとしている。上半期のマイナス成長のため、一四年の経済の本格的な回復は望めないが、一五年は回復が顕著になると見ている。

 サプライサイドでは、五月の農業所得は前年同月比で2・3%減少している。価格の下落によるものだが、季節調整済みの前月比では4・9%増加した。農業生産は前年同月比で6・9%増となったが、価格指数が同8・6%低下したことで農業所得は前年同月に比べて減少した。

 一方、五月の工業生産は前年同月比で4・1%減少した。国内市場向けの生産の減少によるもので、消費者が支出に慎重になっていることを反映している。ただし季節調整済みの前四半期比では工業生産は1・1%増加しており、2か月連続でプラス成長となっている。

 輸出比率が30%未満の国内販売中心の工業の生産は前年同月比で0・1%減少した。食品・飲料、特にビールの生産が収縮している。建材の生産は官民の建設プロジェクトの減少にともない収縮した。石油生産は前年同月比で増加した。前年に製油所2か所の定期修理による休止があったため、比較ベースが低くなっていたことが理由。これが全体の生産を微減にとどめる要因となった。いずれにしても前月比では国内販売中心の工業の生産は横ばいの兆しを見せている。

 輸出比率が30%超60%未満の工業の生産は前年同月比で25・2%減となった。国内の新車需要の収縮を受け、自動車の生産が大幅減になっていることが響いている。また金融機関も自動車ハイヤーパーチェス・ローンの与信を厳しくしている。輸出比率が60%超の輸出指向工業の生産は前年同月比5・4%増となり、2か月連続でプラス成長となった。海外からの引き合い増で、ハード・ディスク・ドライブ(HDD)と集積回路の生産が増加している。また衣料もオーストラリア、韓国、日本からの注文増を受け、生産が伸びている。ただし宝石・ジュエリーの生産は引き続き減少している。海外からの需要がまだ回復していない。、冷凍エビは疫病による影響が続いている。五月の季節調整済みの設備稼働率は60・4%で、前月から横ばいだった。

 観光業では、五月の外国人観光客数は170万人にとどまり、前年同月比10・7%減となった。季節調整済みの前月比では5・4%減だった。五月二〇日の戒厳令の施行と二二日のクーデタが打撃となった。また夜間外出禁止令の発令により、自国民のタイへの渡航に警告を発した国は50か国・地域から、この月には62か国・地域に増えている。多くの国が警告レベルを引き上げており、観光客の信頼感は特に東アジア、中東地域で悪化した。ただし欧州からの観光客数は引き続き増えている。ホテル客室稼働率は46・4%で、前年同期の59・3%を下回った。稼働率はすべての地方で低下しており、特に中部地方では過去5年の平均値を下回っている。また中部地方では宿泊料金も前年同期に比べて下落している。

 不動産業では、バンコク首都圏の不動産市況は五月に上向いた。景気が回復を始めたことによる事業者の信頼感の改善が寄与している。住宅需要は全体として目に見えては回復していない。景気動向に一致したもの。商業銀行による住宅ローン認可を受けた住宅数(季節調整3か月移動平均)は低層、高層双方で前月比微増となった。しかし新規に分譲が開始された住宅物件の購入予約件数は依然として低い水準にとどまっている。一方で住宅供給は上向いた。住宅の新規分譲開始戸数(3か月移動平均)は前月の5906戸から7430戸に増加した。事業者の信頼感が改善したことが寄与している。

 デマンド・サイドでは五月の民間消費は前月比で拡大している。主に非耐久財消費が上向いている。残業の増加で非農業部門の家計所得が増えていることが寄与している。一方、耐久財の消費は依然として低迷し、前月比でも下げている。前月に新型車の発売が相次ぎ、乗用車の購入を急いだことが理由。民間消費指数は前年同月比では0・3%収縮した。乗用車の販売不振によるもので、前年同月の数値が大きいハイベース効果の影響を受けている。また家計債務増と農産物価格下落による農業所得の伸び悩みから、消費者は支出に慎重になっている。中銀は、政治情勢の好転と政府政策の明確化で、消費者の信頼感が改善に向かっていること、籾米担保代金の支払い、調理ガス価格の値上げ凍結や軽油小売価格の引き下げなどの生活費負担抑制措置は今後の民間消費の拡大に寄与すると見ているが、家計の財務はなお脆弱で、米価やゴム相場の値崩れにより農業部門の購買力は低下する見通しにあることを指摘。民間消費はさらに一定期間、低成長が続くと予測している。

 五月の民間投資は前月に比べて小幅上向いた。多くが生産効率の改善を目指したもので、設備増強を目的とするものは少ない。また前年同月比で見ると、民間投資は依然として収縮している。五月の民間投資指数(速報値)は前年同月比で2・9%収縮している。事業者の多くは、景気動向や政府政策の先行きがはっきりするのを待つ姿勢にある。設備投資は収縮が続いている。商用車の販売台数が減少し、自動車工業、電機・電子工業の工作機械の輸入額も減少している。建設投資も、自治市内建設許可面積、セメント販売数量などを見る限り、減速している。中銀は、下半期には景気の回復傾向が一段と鮮明になり、政府の政策が景気に対して具体的な効果を示し始めると見ている。特に投資委員会(BOI)による昨年最終四半期以降積み残した投資申請の奨励認可、工場局の操業許可書の交付が加速し、政府のインフラ投資が動き出すことで、民間投資は全体として下半期から動き始めるものと見ている。

 財政部門では五月の政府収入は3240億バーツで、前年同月比10・7%減となった。税収は前年同月比12・7%減。特に所得ベースの税収は18・2%減となった。景気の減速と法人所得税減税措置によるもので、二〇一三年度の純利益からの法人税納税額は12・9%減となった。消費ベースの税収も、自動車の物品税収が落ち込んでいる。ただし付加価値税収は国内消費と輸入の双方で拡大している。国際通商ベースの税収も伸びている。非税収は11・6%増。タイ発電公団、政府住宅銀行などの国営企業の納付が前月からこの月にずれ込んだことが理由となっている。政府支出(債務元本返済と国庫補填金を除く)に関しては、予算執行額は1460億バーツで、前年同月比5・6%増となった。経常的経費は増加したが、投資的経費は前年終わりの下院解散の影響から引き続き収縮している。


日付 : 2014年07月07日

By : 週刊タイ経済

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