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中銀の金融政策リポート最新号 経済成長率予測を3.0%増に下方修正

 タイ中央銀行の金融政策委員会(MPC)は六月一九日に発表した『金融政策リポート』最新号で、二〇一五年の経済成長率予測を3・0%増に改め、3か月前の予測の3・8%増から下方修正した。通年のインフレ率はマイナス0・5%と予測、コアインフレ率は1・0%増と予測した。一方で、二〇一六年の成長率は4・1%増に加速すると予測。3か月前の3・9%増から上方修正した。

 MPCの書記を務めるメーティー・スパーポン総裁補が会見で明らかにしたところによれば、タイ経済は従来の見積もりに比べて回復が遅れる見通しになっている。輸出の伸びが予測を下回ることが主因。またインフレ率も原油安とデマンド・プルのインフレ圧力の減少から低下する見通しとなっている。メーティー氏によれば、MPCは、①主に中国・ASEAN経済の減速にともない貿易相手国の景気回復が遅れていること、②世界の貿易構造が変化し、タイの輸出が貿易相手国の景気回復から得られるメリットが低下していること、③政府支出、特に投資支出が予想を上回りそうなこと、④二〇一五年第2四半期に世界市場の石油価格が反発したことの4点を主な要因として、経済成長率とインフレ率の予測を行なったことを明らかにしている。

 世界経済は成長が従来予測を下回る見通しで、中国・ASEAN経済の減速によりリスクも高まっている。米国経済は、第1四半期こそ厳冬の影響から成長率が鈍化したものの、雇用と家計の財務ポジションの改善にともない回復する傾向にある。また欧州と日本の経済も緩やかに回復する方向にある。これに対し中国経済は減速を続けており、これがアジアの輸出を鈍化させている。ASEAN諸国の中国向け輸出は軒並み減少しており、それにともない域内貿易や投資も減少している。

 タイの物品輸出は予測の期間を通じて低迷する見通し。貿易相手国経済の低迷のほか、貿易相手国が輸入への依存度を減らしているという世界貿易の構造変化、長期にわたって投資が停滞したことによるタイの輸出セクターの構造的問題が重くのしかかっている。最近のバーツ安は一部の商品の輸出を支援するが、競争力を高めるためには投資を加速させる必要がある。世界市場の石油価格が反発したことにともない商品市況が幾分上向いてきたことは、輸出価格の上昇となり、今後の支援材料になりそう。

 いずれにしても貿易相手国の景気回復の遅れ、世界貿易の構造変化とタイの物品輸出の構造的問題からタイの物品輸出は低迷する見通し。昨年のタイの物品輸出額は前年比で0・3%収縮したが、MPCは最新予測で今年の物品輸出額を前年比1・5%減と予測した。前回予測の0・8%増からの下方修正で、二〇一六年に関しても前回予測の4・0%増から2・5%増に引き下げた。輸出の不振は、民間部門の所得や信頼感を一段と下押しすることになる。加えて金融機関は依然として融資に慎重になっているため、民間支出の回復が予測よりも遅れそう。

 輸出不振と景気回復の遅れは非農林水産業の家計の所得に顕著に影響を及ぼしており、家計は支出に慎重になっている。農産物市況の長期低迷と家計債務が高止まりしていることも消費の下押し材料になっている。消費者の信頼感が悪化し、所得が伸び悩んでいる中、金融緩和は家計消費の刺激には大してつながりそうにない。加えて金融機関も家計向けの貸付には慎重になっている。

 民間企業部門も輸出と民間消費の回復の遅れから信頼感が低下している。設備能力はまだ過剰で、生産増強のための投資は生じにくい情勢。金融機関も融資には慎重になっている。

 一方、政府部門は支出が増加する傾向にあり、年度予算の執行と第2次経済刺激措置からの執行が持続する見通しとなっている。政府支出が拡大すれば、政府の投資プロジェクトに関連した民間の投資も上向きそう。また、サービス輸出は観光客数の増加により、予想以上の高成長を遂げている。昨年の外国人観光客数は約2480万人。MPCは今年の観光客数を2880万人と予測しており、三月時点の2700万人から上方修正した。しかし政府支出とサービス輸出部門の予測を超える拡大も、物品輸出と民間支出を埋め合わせることはできそうにない。このため二〇一五年の経済は成長が従来予測を下回ることになる。

 目先に転じれば、中国経済は主要貿易相手国経済が上向く傾向にあることにともない回復する見通しで、タイの物品輸出も上向きそう。また政府支出は特に投資支出が持続する見込み。これは家計の所得に好影響をもたらし、民間部門の支出に対する信頼感を高めることになる。この結果、二〇一六年の経済成長率は今年を上回ることになる。

 インフレ率に関しては、従来の見積もりを下回る。国内石油小売価格の低下によるもの。世界市場の石油価格は第2四半期に反発しているものの、政府部門が石油基金拠出金を引き下げていることで、国内の燃油小売価格は下げている。また生鮮食品物価の下落もインフレ率の低下につながっている。このほかにも景気回復の遅れからデマンド・プルのインフレ圧力も従来の見積もりを下回っている。ただしMPCは、デフレが生じる可能性は極めて低いと見積もっている。消費は依然として拡大しており、大半の商品・サービス価格は横ばい、または上昇する傾向にあることが理由で、インフレ率は金融政策の目標に近似した水準にとどまるものと予測している。

 MPCは二〇一五年の経済成長率予測を下方修正するとともに、成長率が下振れするリスクが上振れする可能性を上回るものと予測している。成長率がベース・ケースを下回る可能性は、中国・アジア経済の予想以上の減速と物品輸出、国内消費に及ぼす影響により生じるもの。一方で、上振れする可能性は、政府が第2次景気刺激措置の支出を加速させることができた場合で、前者の可能性のほうが高い。

 このほか、MPCは二〇一五年と二〇一六年の一般インフレ率とコア・インフレ率の予測も下方修正した。景気回復が予測よりも遅れることと、世界市場の原油相場が従来の予測を下回る可能性が高いことが理由となっている。原油供給はイランが石油輸出を再開できるようになる、またはシェール・オイルの生産者が生産コストを予想以上に低減することができた場合、産油量が増加することが理由。

 MPCは、インフレ圧力が低下する一方で、下振れリスクの増大に直面している経済の回復を支援するために金融緩和を進めている。前号リポートの発表後、四月二九日に開いた政策決定会合では、政策金利の0・25%幅での引き下げを5対2の多数決で決定した。前回三月一一日の会合での利下げに続くもので、政策金利は年1・50%の水準まで下がっている。多数の委員は、政策金利の引き下げが景気下支えの効果を高め、民間部門の金融コストの低下に寄与するだけでなく、為替相場を景気回復に資するバーツ安の方向に誘導することにつながり、さらにはインフレ率が金融政策の目標を下回る状態が持続する中で、デフレ発生のリスクを低減させるため、インフレ期待を適切な水準にとどめることにも寄与すると判断した。これに対し少数委員は、目先のリスクに対処するため、金融政策の余地を残しておく必要があると主張。前回の三月の利下げが景気と金融の安定に対して及ぼす効果を見守ることが先決だとし、金利の据置きを主張した。

 その後、直近の六月一〇日に開いた会合では全会一致で金利の据置きを決定した。過去2会合連続での利下げで金融情勢が十分に緩和されたことに加え、為替相場も思惑通りにバーツ安に振れ、景気回復に資するようになってきたため。ただしMPCは、タイの経済金融情勢を密接に目配り、景気回復を支援するのに十分な金融の緩和状況をつくるため、適切に金融政策余地を用いる用意があることを示している。また金利が長期にわたって低位にとどまり続けることによって生じる恐れがある金融の不均衡にも目配りしていくとしている。


日付 : 2015年06月22日

By : 週刊タイ経済

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