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バンコク~チェンマイ高速鉄道 協力覚書で新幹線採用に前進

 タイ政府と日本政府は五月二六、二七日に東京で開く会合で、鉄道分野の協力覚書(MOC)を取り交わす。アーコム・トゥームピタヤーパイシット運輸副大臣が日本を訪問し、覚書に署名する見通し。日タイ両国はバンコク~チェンマイ間の高速鉄道とカンチャナブリ~バンコク~サケーオ間の複線鉄道新線を共同開発する。日本政府はまたタイとミャンマーが共同で開発するダウェー特別経済区(SEZ)のプロジェクトにも参加を表明しており、こちらのほうは七月に開催される日・メコン首脳会議に合わせて覚書調印を予定している。

 日本の安倍首相の補佐官である和泉洋人氏が五月一一日にタイを訪問し、首相官邸にプラユット首相を訪ね日本政府の意向を伝えるとともに、タイ側当局者との間でMOCの日程を詰めた。全長670㎞のバンコク~チェンマイ区間は高速鉄道として開発する一方、カンチャナブリとサケーオを結ぶ複線鉄道はチャチュンサオ、チョンブリ県レムチャバンとも接続される。MOC調印式を経て日本の専門家がルートと設計調査のためタイを訪問し、6か月にわたってタイ側当局と共同で調査にあたる。

 プラチン・チャントーン運輸相は、プロジェクトの予備調査はすでに二〇一二年時点で完了しているため、来年には建設着工が可能と述べている。アーコム運輸副大臣は、プロジェクトの財源に関して、国際協力機構(JICA)や国際協力銀行(JBIC)の支援が期待でき、財源は問題にならないとしている。財源その他の問題は年内に完了する見通しを明らかにしている。

 プラチン運輸相は、合意覚書(MOU)の段階をすでに超えているため、今回調印する覚書はMOCを使うことになったと説明。その後にプロジェクトは実行段階に入るとしている。和泉首相補佐官はプラユット首相を訪問した際、2つの鉄道プロジェクトでのタイ日協力を確認した。ヨンユット・マイラープ政府報道官によると、和泉氏からは日本政府としてバンコク~チェンマイの高速鉄道を最も重視していることが首相に伝えられた。日本政府はインフラ輸出を成長戦略の一つに位置づけており、中でも高速鉄道は世界に誇る技術を有しており、性能面や安全面で高い評価を得ている分野。車両や運行システムも含めた包括的な受注を期待している。

 日本はこれまでもタイの鉄道分野のインフラ整備を支援してきたが、受注実績ではドイツの後塵を拝している。都市型鉄道分野では地下鉄プロジェクトなどに円借款を供与し、建築・土木は受注してきたものの、車両や運行システムは受注できないでいた。バンコク~チェンマイの高速鉄道を日タイが共同開発することが正式決定すれば、日本の新幹線方式が採用される見通しで、車両や運行システムなどを日本勢が包括的に受注することになり、官民協力による日本のインフラ輸出に弾みがつくと期待している。

 これとは別に、アーコム運輸副大臣は電車パープルラインの最初の3編成の車両が今年一〇月にはタイに引き渡される見通しにあることを明らかにした。パープルラインの建設工事は順調に進んでおり、予定通り来年には開通の運びとなる見通し。電車パープルラインはバンスーとノンタブリ県バンヤイ郡を結ぶ路線で、タイで最初の地下鉄を運行するバンコク・メトロ社(BMCL)が運行権を取得している。パープルラインの鉄道システムの供給・保守請負業務は丸紅、東芝、JR東日本の日本企業連合が受注している。丸紅と東芝は、両社が出資する共同事業体を通じて、パープルライン向けの鉄道システムの供給と10年間のメンテナンス事業を受注している。鉄道システムは、車両、信号・運行監視設備、変電設備、通信設備などのシステム一式を納入するもので、建設大手のチョー・ガーンチャン社(CK)との契約。納入する鉄道車両は63両で、JR東日本グループの総合車両製作所が製造する。メンテナンス事業は、パープルラインの運営会社であるBMCLとの契約。東芝、丸紅、JR東日本が共同で事業会社を設立し、軌道・駅設備を含めた鉄道施設一式のメンテナンス事業を10年間行なう。バンコクの都市交通に日本製車両が初めて採用され、鉄道運営会社を含めた日本企業連合が海外での鉄道メンテナンス事業に参画する初めてのケースで、日本政府も売り込みに一役買った案件になっている。

 一方のカンチャナブリ~サケーオ区間の複線鉄道新線プロジェクトは、ミャンマーのダウェー開発プロジェクトとも密接にリンクしている。プラチン運輸相はまた、日本がターク県メーソートとムクダハンを結ぶ鉄道新線の研究も手がけることを明らかにしている。この路線はミャンマー、タイ、ラオス、ベトナムを結ぶ東西経済回廊に沿ったものになっている。

 和泉首相補佐官は日本がダウェー特別経済区の共同開発に加わることも伝えている。日本はタイ・ミャンマー両国が設立した特別目的会社のダウェーSEZデベロップメントに出資する方針。プラユット首相は今年七月に開催される日メコン首脳会議出席のため七月三~五日に日本を訪問予定で、その際の覚書調印を予定している。日本はすでにJICAを通じて専門家を同プロジェクトに派遣している。

 ダウェーは道路と鉄道を通じてカンチャナブリ県のプナムローンとつながる。カンチャナブリからバンコク経由でサケーオ県アランヤプラテートのカンボジア国境までが複線鉄道で結ばれることの意味は大きい。

 ソムマイ・パーシー財務相は五月一一日、2つのモーターウェイの建設費1402億バーツの借入計画の認可を内閣に求める考えを明らかにした。アユタヤ県バンパイン郡からサラブリ経由でナコンラチャシマまでの196㎞とノンタブリ県バンヤイ郡からバンポーン経由でカンチャナブリまでの96㎞。交通渋滞の緩和などが目的で、利用料金収入が低すぎるため官民連携(PPP)には不向きだと説明している。

 財務省公的債務管理事務局のティーラート・アタナワニット次長は、運輸省が2つのモーターウェイ・プロジェクトの入札実施の準備がすでにできているのであれば、今年度の公的債務計画に組み入れることは可能で、そうでなければ次年度の計画に持ち越すことになるとしている。財源は国内の金融市場に求める方針。総工費はバンパイン~サラブリ~ナコンラチャシマ自動車道が846億バーツ、バンヤイ~バンポーン~カンチャナブリ自動車道が556億バーツ。工期は3年を見込んでいる。バンヤイ~カンチャナブリ区間は南部経済回廊の一部を成すもの。カンチャナブリとダウェーを結ぶ道路は、日本・タイ・ミャンマーによるダウェー開発の共同プロジェクトで建設されることになっており、ダウェー深海港がバンコク、レムチャバンを経由してプノンペン、ホーチミン市、ベトナムのバリアブンタウ省のカイメップ・チーバイ港まで1本の道路で結ばれることになる。


日付 : 2015年05月18日

By : 週刊タイ経済

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