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タイ中銀が0・25%幅で利下げ 政策金利は年1・75%に

 タイ中央銀行の金融政策委員会(MPC)は三月一一日に開いた政策決定会合で、政策金利を0・25%幅で引き下げて年1・75%とすることを決定した。7人の委員のうち4人が0・25%幅での利下げを主張、3人の委員は据え置きが妥当とし、多数決で利下げを決定した。タイ経済の回復ペースが思ったように上がってきていないこと、財政支出による景気刺激の効果が現れるまでにはなお時間を要すること、インフレ率が今後も一定期間は低位にとどまりそうなことを利上げの理由に挙げている。

 MPCの利下げ決定を受け、大手商銀のサイアム商業銀行(SCB)は直ちにプライムレート(MLR)と定期預金金利の引き下げを発表した。一二日付けでMLRは0・20%幅で引き下げ、年6・55%に改めた。定期預金金利は3か月物で年0・90~0・95%、6か月物で年1・15~1・20%、12か月物で1・5%に改めた。カシコン銀やクルンタイ銀など他行も追随利下げを発表している。

 政策金利の引き下げは一年ぶりとなるものだが、中銀幹部はこの日の会合の直前まで、現在の政策金利は景気回復をサポートする
上で十分に緩和的で、景気の刺激は財政政策に期待すべきとして、今回の会合での金利据え置きを示唆してきた。しかし経済界では、二〇一四年のタイの経済成長率が当初見込みを下回る0・7%増にとどまっており、原油安でインフレ率もマイナスに転じていることから、景気浮揚のための利下げへの期待が増していた。政策金利をめぐっては、バーツ高抑制を理由に利下げを求める声も強まっていた。欧州中央銀行が量的緩和措置に踏み切ったことで、緩和マネーの一部がタイにも流入し、バーツは上昇基調に向かうものと観測されている。バーツの上昇は輸出にマイナスとなり、GDP成長率にも影響を及ぼすことになる。このため一部のエコノミストは中銀が政策金利を引き下げると予測していた。

 MPCの書記を務めるメーティ・スパーポン中銀総裁補は、二〇一四年最終四半期と今年一月のタイの景気の回復が遅々としたものになっていることを指摘。特に民間消費と投資の勢いが予想よりも弱々しいものになっていること、その一因として民間部門の信頼感が低下していることを強調している。今後の期の経済の回復ペースも前回会合時の予測を下回ると見ている。物品輸出は緩やかな回復を想定しているが、貿易相手国、なかでも中国経済の減速によりリスクが高まっている。唯一、観光業のみが順調に回復しているものの、国内需要を穴埋めするには至っていない。MPCは、消費者や企業、投資家などの民間部門の信頼感を高めない限り、今年通年の経済成長率は予測した4%増には達しないと見ている。

 一方、今年一、二月の一般インフレ率は低下し、2か月連続でマイナス・インフレになっている。ただしすべてのセグメントの物価の下落の結果ではなく、原油安によるもので、大半の商品やサービスの価格は依然として上昇している。このためコアインフレ率はプラス値を保っている。タイ中銀は、コアインフレ率がプラス値にとどまり、消費者の信頼感が著しく低下しているわけではないことから、デフレは生じないと見ている。

 商業省の発表によれば、今年二月の消費者物価指数は106・15ポイントで、前月比で0・12%上昇したものの、前年同月比では0・52%減となった。インフレ率が2か月連続でマイナスとなったことを受け、商業省は通年予測を従来の1・8~2・5%増から0・6~1・3%増へと下方修正している。商業省は一般インフレ率について、原油安にともない上半期は低い水準が続くものの、原油相場は今年終わりには先進国が冬季を迎えることにともない反発すると予測。インフレ率が通年でマイナスになることはないと見ている。

 メーティ氏はインフレ圧力について、MPCが前回会合で見積もったところと近似した水準で推移する見通しにあるとしている。民間部門のインフレ期待が低下し、一般インフレ率が今後も一定期間、低位にとどまる見通しになっていることは、金融政策の自由度を高めており、政策金利の引き下げの余地が増えたと判断している。ただし金融の安定はなお良好な水準にあるが、国内の金利が長期間にわたって低位にとどまっていることで、高利回りを求める投資行動から生じるリスクを追跡する必要があるとした。

 いずれにしてもインフレ率の低下を受け、名目の金利から物価上昇率を差し引いた実質金利は上昇傾向が続いている。国家経済社会開発委員会(NESDB)のアーコム・トゥームピタヤーパイシット事務局長は、実質金利の上昇を経済成長に対するリスク要因の一つと指摘。バーツ高の抑制と合わせて、追加利下げが望ましいとの見方を示している。米国を除く世界各国が金融緩和により自国通貨安を誘導することで、景気の回復につなげようとしており、通貨の切り下げ競争が生じている。シンガポールや中国、インドなどが相次ぎ金融緩和を行ない、金融政策を自国通貨安誘導に積極的に活用しているため、タイ中銀はその消極的な態度が産業界やエコノミストの批判を受けてきた。メーティ氏は、バーツ安誘導には言及していないものの、こうした各国の動向が今回の利下げ決定の判断材料の一つになったものと見られる。

 この日のタイ株式市場は中銀の利下げ決定を歓迎し、SET株価指数は前日比12・8ポイント上昇した。売買代金も538億バーツに膨らみ、優良株中心に幅広い買いが入っている。

 MPCは金融政策決定において、タイ経済の回復が予測よりも弱々しいものになると見積もり、経済を下支えし、民間部門の信頼感を浮上させるために一層の金融緩和が必要だと判断した。一方で、少数委員は現在の金利水準は依然として適切で、将来的に今以上に利下げが必要で効果的な時期が来ることを想定して、金融政策の幅を残しておくべきだとして据え置きを主張している。

 中銀による今回の利下げについて、バンコク銀行(BBL)のコーシット・パンピアムラット執行役員会議長は、経済成長率を高めることは期待できず、せいぜい経済の活動量を維持するだけと分析している。他のエコノミストも同様に、利下げの効果は、経済成長の下振れリスクを抑制する程度にとどまると見ている。経済界では輸出企業が歓迎する一方、国内市場中心の業界では個人消費を駆り立てる効果はないと見ている。

 直前まで金利の据え置きを示唆してきた後に一転した利下げ決定は、市場を驚かせることによる心理的効果の最大化を図ろうとした形跡が透けて見えるものとなっている。マティ氏は、政策金利の引き下げが市場のセンチメントや信頼感を改善することを望んでいるとコメント。利下げの実質的な効果が出るのには時間がかかるが、センチメントへの効果は直ちに発生すると説明している。

 輸出企業はここ数か月、貿易相手国や輸出競合国通貨との比較でバーツ高の影響を受けてきた。特に欧州中央銀行が量的緩和の実施を発表して以降、欧州の緩和マネーがタイにも流入し、バーツ相場は対ユーロで強基調で推移している。タイ工業連盟(FTI)のスパン・モンコンスティ会長は、0・5%幅での利下げを望んでいたため、決定には不満な部分もあるとしつつ、利下げがバーツ高の抑制につながることで輸出企業は助けられるとコメントしている。タイ商業会議所(TCC)のポーンシン・パチャリンタナクン副会頭は、利下げの効果は小さいかもしれないが、少なくとも個人支出の刺激には役立つと評価するとともに、今後の追加利下げへの期待も表明している。一方、バン銀のコーシット氏は、利下げが家計債務の膨張につながる可能性があることを警告している。これに対し別のエコノミストは、家計債務の膨張や景気の先行きに対する懸念から、利下げによって金融機関の貸出意欲が高まるとは思わないとしている。マティ氏は、MPCが家計債務に及ぼす影響を周到に検討したことを明らかにし、利下げしても状況は悪化しないとの判断に至ったと説明している。

 中銀総裁経験者でもあるプリディヤトーン・テワクン副首相は一二日に都内で開かれたセミナーで基調講演し、利下げはバーツ高を抑制し、輸出業者にとってプラスになると述べている。ただし物品輸出が上向くかどうかについては市場の需要も関係してくるとした。


日付 : 2015年03月16日

By : 週刊タイ経済

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