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中銀の最新金融政策リポート 今年の経済成長率予測は2・7%増

 タイ中央銀行の金融政策委員会(MPC)は三月二一日に公表した『金融政策リポート』最新号で、二〇一四年の経済成長率を2・7%増と予測した。二〇一三年の成長率の2・9%増を下回るもので、特に上半期に国内需要の低迷から減速すると予測した。公的機関の経済予測で、今年の経済成長率が前年の伸び率を下回るとしたのはこれが初めて。タイ中銀のほか、財務省、国家経済社会開発委員会(NESDB)事務局や民間シンクタンクは年初時点で、今年のタイ経済は一三年から上向くと期待していたが、一三年下半期の景気の予想以上の失速と政治混乱の長期化で目算は狂っている。同リポートは、政治情勢が年央に収束することを前提に、二〇一五年に経済成長率は潜在成長率のレベルに戻すと見ており、一五年の経済成長率は4・8%増と予測した。

 同リポートは、二〇一四年のタイ経済の成長率が鈍化する見通しにあると指摘している。国内需要が上半期に脆弱化するからで、国内政治情勢が消費者と投資家の信頼感に影響を及ぼしていることが理由。一方、輸出は、貿易相手国経済が上向くのにしたがって緩やかに回復する。政治混乱が今年半ば以降に収束すれば、国内需要は上向きに転じ、輸出とともに経済成長の推進力になると見ている。その結果、一五年のタイ経済は正常なレベルに近似した成長へと回帰する。インフレ圧力に関しては、主に調理用ガス・コスト増の食品価格への転嫁によって上昇する一方、デマンドプル型の圧力は景気に沿って減少する。

 MPCは、前号のリポート発表以降、3回の金融政策決定会合を開いている。一一月の会合では政策金利を0・25%で引き下げることを決定し、一月の会合では年2・25%に据え置くことを決定した。そして最新の三月一二日の会合では政策金利をさらに0・25%幅引き下げて2・00%とすることを決定している。景気の回復に時間がかかる一方で、インフレ圧力がまだ懸念されない時期において、金融政策は経済を支援する力を高めるために追加の緩和が可能だと判断した。

 二〇一四年のタイ経済が、特に上半期において成長低下の見通しにあるのは、一三年下半期の経済のモメンタム(勢い)が予想以上に低下したことによる。国内需要は収縮し、輸出は思った以上に回復が遅れている。加えて国内の政治的不確実性は一三年一一月から長期化しており、政府支出に直接的な影響を及ぼしているとともに消費者、投資家、外国人の信頼感を低下させている。これが追い討ちとなり、国内需要は年の上半期に低成長が続く見通し。ただし輸出は、貿易相手国経済が上向くことにともない回復を続けそう。輸出の回復は、今年の経済の主要な推進力になると期待されている。

 MPCは、政治情勢が年央までに落ち着けば、一五年の経済は正常なレベルに近い成長に回帰すると見積もっている。一五年には民間支出と観光セクターが回復を続ける輸出セクターとともに経済の推進力となりそうで、また政府支出も経済成長に対する寄与度を高めていくことになる。

 MPCは一四年の経済成長について、下振れするリスクが上振れする可能性を上回ると見ている。国内要因では、一四年の下半期まで政治的不確実性が長期化した場合、政府支出に直接の影響が及ぶことや、消費者、投資家、外国人観光客の信頼感を一段と蝕むことになり、成長率は予測を下回りかねない。一方、対外要因からのリスクも同様に下向きのトレンドになる。リスク要因は、米連邦準備制度理事会(FRB)による量的緩和(QE)の段階的縮小で、この結果、新興市場国経済がキャピタル・アウトフローと為替変動に直面し、予想以上に減速する可能性がある。新興市場国経済の減速はタイの輸出回復を遅らせる可能性がある。

 一方、インフレ圧力は、コスト・プッシュの圧力が強まる一方で、デマンド・プルの圧力は低下する。調理用ガス価格が昨年九月以降、段階的に引き上げられていることが、食品価格を予想以上に上昇させている。ただしその他の物価は、経済の減速にともないデマンド・プルの圧力が低いことにともない、ほぼ横ばいとなっている。一般インフレ率とコアインフレ率は予測の期間を通じて上昇し、特に二〇一四年に顕著になりそうだが、総じて低い水準にとどまる。インフレ率予測に対する上振れリスクと下振れリスクはほぼ均衡すると見積もっている。調理用ガス・コストの食品価格への転嫁によりインフレ率が上昇するリスクがある一方で、経済がベースケース以上に減速する場合にはデマンド・プル型の圧力が予想以上に低下する可能性もあるため。

 MPCが一四年の経済成長の牽引役と期待する物品輸出は、世界経済の回復にともない上向く見通しとなっている。一四年の物品輸出額は前年比4・5%増になると予測し、一三年の0・2%減からプラス成長に転じる。一方、サービス輸出では、観光業が政治対立により大打撃を受けているが、過去の例からも政治混乱が収束してからの回復は速いと期待している。これに対し、政治混乱が発生する以前に期待されていた政府支出は多くを望めなくなっており、むしろ景気の足を引っ張りそうな見通しとなっている。下院の解散で、現政権が選挙管理内閣となっているため、中央予算や一部の投資予算の執行が難しくなっている。二〇一四年度予算の執行率は、従来見通しを下回る90・5%程度にとどまりそう。また二〇一五年度予算も本来なら、大枠が決定している時期だが、政治空白で予算編成のスケジュールはずれ込んでおり、来年度予算法の施行時期は早くても3か月遅れになりそう。治水プロジェクトは、落札業者との契約が滞り、緊急性を有する運河の浚渫や道路補修などの予算執行以外は不可能になっている。また2兆バーツの運輸インフラ開発は、借入法案に違憲判決が出ており、すでに閣議認可を受けている国営企業の継続プロジェクト以外は実施することができない。MPCは予算外支出であるインフラ・プロジェクトの一四年の執行額が170億バーツ、治水プロジェクトのそれは120億バーツにとどまると見ている。一四年の政府支出(消費・投資)は前年比2・5%増と、一三年の3・8%増を下回る見通し。

 民間需要は、政府の経済刺激措置の満了と、消費者が支出に慎重になっていること、政治混乱の長期化による信頼感の低下から上半期には低成長が続く。年央に政治情勢が落ち着く場合には消費は緩やかな回復に向かい、民間投資も国内消費者の購買力や輸出の動向に沿って回復に向かうと期待している。一四年の民間消費は0・3%増、民間投資は0・5%減と予測した。

 タイ商業会議所(TCC)のイサラ・ウォンクソンキット会頭は、政治混乱による経済的損失はすでに1000億バーツ規模に達しているとし、政治空白がさらに半年続いた場合には景気は後退局面に入ると警告している。TCCは、政治暴動が発生しなければ今年の経済成長率は2~3%増が望めるが、暴動が発生したり政治混乱が下半期になっても続くようなら、マイナス成長に転じると見ている。

 イサラ会頭は、政治対立が収束して第3四半期までにやり直し選挙が実施できた場合、今年の経済成長率は2~3%増になると予測し、経済成長を正常なトレンドに戻すべく、政治対立を速やかに終える努力を政府・反政府の当事者双方に求めた。同会頭は、政治空白による投資委員会(BOI)の委員任命の遅れで5000~6000億バーツの投資プロジェクトが保留になっていることを付け加えている。すでに外資の一部は、タイへの投資を断念して、インドネシア、ベトナムなどの他のASEAN諸国にシフトしている。

 TCCは、各産業部門の関係者との議論から、観光業が政治不安の影響を最も大きく受けていることを確認している。旅行代理店やホテルの収入や予約は激減しており、バンコク首都圏のホテルの予約は前年比25~30%減少している。宝石・ジュエリー、スパ、レンタカー、病院、MICE(商談・インセンティブ・会議・展示会)産業も昨年末以来、収縮を続けている。不動産、住宅、自動車の販売も二〇一三年同期に比べて減少しており、家具、塗料、電化製品などの産業も影響を受けている。一方で、繊維・衣料などは近隣国への生産拠点の再配置が一定程度進んでおり、影響は相対的に少ないものにとどまっている。TCCは今年のタイの物品輸出を最低でも5%増と予測している。


日付 : 2014年03月24日

By : 週刊タイ経済

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