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「水と安全はただ」と言われた日本も今や外国人犯罪、長期経済低迷、社会モラールの低下等により、いわゆる外国並の危険が広まってきたとは周知の通りです。ここタイ国はまさしくその「外国」であり、一般生活上は勿論、企業活動における事件、事故も多発しております。タイはご周知のとおり、自営業者の方々、企業駐在員と及び家族、そして仕事、観光での邦人滞在者が多く、大使館・領事館の注意喚起や懸命の対応にもかかわらずトラブルが多く世界一の邦人保護件数と言われるほどに年々増加傾向にあることも事実であります。その内容についても突発性、凶悪化が指摘され、特に昨今はテロリズムの横行も顕著であり、危険度が増す一方です。安全対策、セキュリティー対策に注意を払うことが安定的な生活、企業活動を行う為にも必須になってきています。
その中でも、「外国」タイでの企業活動上において、危機管理、安全管理の未整備から種々の問題が多く発生している状況から、今回そこに焦点を当て、対策等の議論を進めて参りたい。これらを通じて諸会員の企業活動のスムーズな活動維持、更なる発展に寄与となることを願ってやみません。
【1.タイ国における企業犯罪の実態と傾向】
傾向 1) 一般侵入窃盗、強盗
傾向 2) 原材料、製品の組織的抜き取り
傾向 3) 調達・納入処理の不正に拠る盗取
傾向 4) 生産設備への破壊行為、妨害行為
傾向 5) 企業内情報(製品データー、顧客リスト等)の漏洩、売買
傾向 6) 評価待遇への不満、社員間の私怨による報復的行為(労働争議化)
上記の通りである。
オフィスや工場、一般商店、住宅等においては場当たり的な集団強盗行為、武装強盗行為もたまに見受けられますが、それ以上に営利的な内部犯行が圧倒的に多いのが実情で、どの犯罪傾向にも共通している事項と言えます。これは長年タイに在住している方々の認識とも一致するものと思われます。
以下傾向に沿ってケースを列挙していきます。
傾向1 の ケース1 一般盗難)
朝方オフィスに出社したところ、鍵がきれいに破壊され侵入。パソコン数台盗難にあった事案。ビルには24時間警備員もいたが、全く気づかなかった。パソコンのみならず、データー関係が復旧できず被害甚大であった。単純な窃盗のケースだが、社員の退社後であり、内部に精通した社員、退職者の可能性もあった。
ケース2 組織的盗難)
工場を立ち上げて操業まもない時期、搬入したばかりの電子部品材料が一式倉庫から消えていた事案。搬入口がこじ開けられており外部犯とも思われるが、夜間搬出するにも量的に簡単ではないことから内部社員、ガードマンの関与が疑われた。
傾向2 ケース3 抜き取り)
操業期間の長い工場において、ロス率が改善しない。在庫管理の徹底や、オーディット(BOI関連)、リーク等で判明。幹部・中堅の製造管理担当社員と現場社員の結託。ラインや倉庫から定期的に抜き取り、外部組織に横流していたもの。外部組織の中には地元警察関係者がメンバーであったり、血縁、地縁的に結びついているケースもあり、常態化していた。会社側も、会計上の問題もさることながら、取引先、各種政府制度の認可など運営問題に発展しているケースもある。
傾向3 ケース4 不正盗取)
納品業者と調達部門の結託による上乗せ発注、相見積もりの虚偽取得による納品物の盗取、横流し。某企業で調達制度、調達先を見直しした際、発覚。長年の不正であった。組織的加担者の認定も出来たが、報復も考慮し段階的に異動、退職させていった。
傾向4 の ケース5 反動、妨害行為)
解雇者が休日夜間等に、警備手薄を利用し不法侵入し盗取を行い、且つ副次目的として生産設備に工作し被害を起こさせたケース。また食品加工工場における異物混入をされたケース。会社に不満を持つ者、反動分子のケースであった。
傾向5 ケース6 機密情報の漏洩、売買)
会社情報は現在完全に取引されている。工場のワーカーで一ヶ月程度での退職を定期的に繰り返し、会社情報(商品、販売可能データー、警備体制、幹部住所、車両、プライベート情報等)を収集し外部組織マーケットで売買。
不審逮捕者が多くの会社IDカードを保有し、実行していた事案。盗取行為もしていた。会社側は、盗難リスクのみならず、破壊活動や会社機密事項の漏洩対策を講じたケース。
傾向6 ケース7 社員報復)
社内、社員間の怨恨、待遇、評価の不満によるトラブル。日本人幹部が私生活問題をネタに脅迫的行為を被るケース。またタイ人上司評価者に対して突然発砲し死亡せしめたケース。日本人幹部に対して、帰宅時自宅近くで、顔は不明だが威嚇的に発砲し逃走したケース。未遂ではあったが会社に爆発物を送りつけられたケース。
〔ポイントとして〕
1)社内の業務管理体制、防犯体制の不備に乗じられた内部組織的な犯行
2)外部組織と社員(生産管理、調達部門など)、外部取引業者(特に清掃、植栽、運送人など)、警備員の結託による犯行。
3)社員待遇、職場環境、業績評価など人事・労務問題に原因を発する反動的犯行
<タイの常駐ガードマンは何故信用できないか>
皆様が頻繁に問題にされている上記の点について触れさせて頂きます。内容としては
「内部犯行時は必ず常駐警備員の関わりがある。」
「良くサボっている。勤務状況がいい加減で信用できない。」
などです。
原因は至極簡単ですが、根が深いところにあります。
1) ガードマン派遣については日本のように教育、資格について法規制が無い。
2) 彼らは殆ど地元の人間で所得も低く殆ど休日も与えられていない情況。勤務環境苛酷
3) このような中、地元、会社内部の犯罪グループには身元がばれていることも多く、犯罪の協力を強要されても、積極的に関わるというより中々拒否できない環境にある。
4) また勤務遂行に真面目に取り組んで成果があったとしても、派遣先の会社側から評価表彰報酬を得るわけでも無く、所属会社からも同様です。仕事にプライドをもてない。
5) 一方真面目に取り組み、成果を出しても、逆に犯罪グループから報復を受ける可能性が高いわけです。従って、積極的でないにしても、見て見ぬ振りをしたり、無感知を決め込む、犯行に加担すると言うことが多いのです。
この点に対応できうる体制とノウハウを持っている会社の選定を厳しく行う必要があるかと思慮いたします。
【2.犯罪組織の考察】
タイの会社・工場単位では代表的に以下の5つの犯罪組織形態が介在、浸透している。
1) 「抜き取り」グループ
- 外部組織と繋がっているケースを多く確認している。
- 主に工場の生産原料、貴金属、レアメタル等の材料、精密部品、製品、半製品を各ライン、各班ごとにノルマを持った組織の協力人を配置し、定期的に抜き取る。
- 会社の中のリーダー格が収集、運び出しのコーディネイトをしている。
- 協力者:常駐ガードマン、購買担当、清掃業者、等。
2) 「金貸し専門」グループ
- 個人、組織の場合もある。貸付けが目的。正式社員として入社し一般社員に貸付ける。必ず「親」が存在し、取立て集金の「子」、「孫」組織化へ発展する。
- 返済できない社員は上記「抜き取り」グループに加担させるケースに繋がる。
3) 麻薬グループ
- 会社・寮の門前、近所の食堂あたりで売買。工場の中に売買の実行者単位がある。
- 代金の滞った社員、持金無い者は上記「抜き取り」グループに加担するケース。
※ご周知の通りタイ北部には警察権・軍権の及ばない麻薬製造地域がある。これは山岳ルートを経て欧米等に密輸されていると言われている。この資金が各国テロの支援となっているのではないかとは良くレポートされている。最近対策で減少しているが単価高騰している。
4) 賭博グループ
- かなり一般的な娯楽として主に「宝くじ」の違法賭博。現在はサッカーなども。
- 必ず会社、工場に外部組織の手先となっている「受付・集金」担当がいる。
- 大きく負け越すケースが大半で、最終的に「抜き取り屋」に繋がっていく。
5) 企業情報の販売グループ
- 複数の会社、工場の社員として入社し、人数、設備規模、生産品目、管理体制、幹部社員動向ほか、会社の機密事項まで、調査し組織に売買。人脈構築済み。
- 上記グループは 逮捕者、摘発者からの事情聴衆から判明している。
〔会社活動上の問題〕
・ 会社の組織モラール、規律を歪めていること。段階的に統制不能化
・ 外部組織にとって、何らかの手当てがされないと解っていればその情報、評判はすぐに伝わり、犯罪規模が拡大していく。
・ 会社上部は気づかない、無関心。特に日系会社、日本人幹部には労務問題の範疇として危機感が薄いこと。情報が入らない。
※ 上記は厳然たる事実。また知っているにもかかわらずなんら効果的な手当てをしていない。
【3.犯罪のバックグラウンドの理解】
上記は何もタイだけのことではなく、日本は勿論比較的モラル、コンプライアンスの高い韓国、台湾、アメリカ、西ヨーロッパ諸国でも同様と言えます。故に東南アジア、中南米諸国、東ヨーロッパ、中国沿岸部などでは極めて一般的、常識的といっても過言ではありません。極めて正常と見るべきでしょう。
特にタイ国在住の日本人は頭の中では理解していても、一定度セキュリティーインフラの整った環境下での仕事意識、競争激しい企業社会での活動習慣から主業務以外のそれらセキュリティーに「気」が回らないだけの状況と考えられます。また言葉の壁、習慣の差異から社内での情報も実のところ入りにくいと言う事情もあるでしょう。
タイでの常態化していることと、日本人感覚での異常という差異はどこから来るのか。経済の成長段階下での現象とも言えますが、それだけではなく、ずばり企業活動への認識の違い、引いては、社会観、人生観の違いから発していると言っても過言ではありません。
企業問題に関わる著名なタイ人談を引用すると、
・ 一般タイ人には一部の人を除き「会社」に日本人同様のロイヤリティーはない。
・ プライオリティーは家族、親戚、友人であり、尊敬すべきは王室、宗教、親。
・ 現代において欲するものは収入、車、住宅、地位、そして居心地の良い(サバイサバイな)職場環境、名声。
・ 「会社」はあくまで生活の糧を稼ぐ手段と場であり、人生の目的とはならない。
・ 目先自分の利になることは自己規制なく行う。
日本でも一昔ほどではないにせよ今もって手軽に転職しない事情からも「会社」と「個人」の相互互依存は依然強固と言えます。タイでは違った関係です。それは気候風土含む地政学的理由、歴史観、社会観的から発していることは周知のことでしょう。当然それは生きて行くうえでの自己規制の形、行動の原理・ルールが違う。有体に言えばタイ風土の規律の中で生きて行くためには何でもする、日本の企業倫理と違っていても。と言うことに他なりません。その様な考えのタイ人の中から一部とは言え、犯罪に加担する者が出て、順法意識が違う、日本人の様に責任感がない、信頼できないと言っても始まらず至極自然な状態と認識すべきで、それに対する対策を粛々と行うだけのことです。
【4.対策考察として】
1) セキュリティー産業概略と警察サービスの流れ
(1)センサー1個から傭兵まで、韓国、中国沿岸部から東南アジアで約10兆円超と言われている。欧米巨大電子メーカー企業、大手警備サービス会社、特殊警備サービス会社、誘拐交渉専門会社、ベンチャー系システム会社など多数参入。
(2)国家・政府の監視強化の流れ(公安系部門の拡充、公的監視と盗聴)の進展
イスラエル、アメリカ、中国、シンガポール、タイ等
(3)セキュリティーシステムは「分業方式の欧米方式(計画、工事、監視、緊急対処-これは殆ど警察)」と「緊急対処付フルサービスタイプの日本方式(対処が警備サービス会社)」に大別。
(4)法制化は、自己完結型と警察誤報出動の殆どない-節税型の日本方式へ流れている。
※ イギリスでは特定利用者の誤報、緊急対処に警察の濫用は国税使用の不公平の是非が政府で問題になっていました。アメリカの一部の州でも同様の流れですし、中国公安部に至っては欧米方式と日本方式を比較検討した結果日本方式の採用に結論が出ております。タイでも検討が始まっているところです。
つまりは、各国同様、タイも警察の対応能力が昨今のテロ、犯罪の凶悪化に対しては一杯になってきつつあり、且つセキュリティー機器は取り付けだけの業者、モニターするだけの会社の杜撰な警備計画と、オートダイアルでの通報と言うことで95%を占める誤報の問題で警察が振り回されている事情があります。
そこで、公的サービスである警察の対応は、実際の事件捜査や公的警備を除きいわゆる私的な警備予防や、防犯上の措置は利用者の自己責任を求める傾向にある。と言うことです。つまりはセキュリティーは「自分の身は事前に自分で守れ」と言う方向にあるということを理解せねばなりません。
2) 警察の能力
これについては多少差し障りがあるのでこの稿では割愛いたしますが、当然いざと言う時に頼りにするのは警察ですし、職業意識の高い良心的な人材も当然多いのも事実です。しかし、何か事件が発生した場合捜査能力は日本と比較して日本人が期待するほどにはない状況です。捜査に必要な解決的思考、集中力と根気はあまりないと言わざるを得ません。また、学歴、門閥によるヒエラルキーが厳然としていて、一般警察官は待遇的に優遇されているとは言えません。意外ですが、制服・階級章、拳銃さえも自前調達ですし機種統一されていない。制服も返納義務がないので時に退職した偽警官も登場します。政府、警察機構も改善を図っていますがまだ期待値には達していない現状でしょう。
3)物理的対策と会社風土的対策
企業活動上のセキュリティー対策は上記から『人事・労務問題の克服』に尽きると言って過言ではありません。
(1) 犯罪事案を発生させない物理的管理体制をつくる。
- セキュリティー監視システム
発生時即応体制の確立
- カメラ監視システム
これによる犯罪抑止、日常業務監視
- 入出規制システム
カード、指紋等で重要エリアを資格要件により規制
- 金属・危険物検知装置
不正持ち出しけん制
- 在庫品追跡システム
倉庫、生産ラインでの抜き取り牽制
- PCネットワークのアクセスセキュリティーシステム
指紋・カード等で会社、個人重要データーへの不正アクセスの防御、データーの暗号化 等の導入
(2) 犯罪事案を発生させない待遇、評価制度、職場環境の整備構築
- 社員が大事にされている。気に掛けられているというムードの醸成
(3) 犯罪事案を発生させない会社ムード、コンプライアンス風土の確立
- トップ自らの企業活動理念の浸透と、セキュリティー重要性のアピール
- 横断的委員会、組織活動の活性化
上記いずれも、単独で効果あるものではなく、当然相乗的に考えるべきです。社員が正しく行動し「不正をしない、出来ない」という体制とムード、風土を創り社内、社外に「この会社は管理体制がしっかりしている」、「あの会社はセキュリティーがしっかりしている」と言う声が出ればしめたものではないでしょうか
その時、タイにおける企業活動の走力が極大化していくものと確信する次第です。
【5.危機管理対策】
昨今のテロ事件は今後形を変え増加する傾向を示しており、南部では特に脅威が増加しています。実際タイでは過去にも、クーデター、暴動を経験しています。またSARSなどの伝染性疾病は環境悪化等を原因として今後も発生する可能性は大でありますし、昨年の津波など災害も念頭に置いておくべきでしょう。この様なリスクは上述のセキュリティーマネジメントとは違って一企業の対策では限界があります。とは言っても企業としては会社資産、活動の保全、社員及び家族に対して責任を有する以上、機動的な対策を講じておく必要があります。
以下、参考的に対策について記しました。
<対策事例>
1. 親会社の危機管理体制など、そういったものがあれば、それに従う。
2. 危機管理委員会的なものを常設しておき、定期的に意識と状況を把握。
3. 大使館、日本人会、タイ国政府からの発表等での情報収集。
4. 事件事故、災害発生時の社内的な連絡網の整備と意識確認。
5. 危険度のレベル別に応じた対応の策定。
| 危険最高度 - 政府による危険発令、戒厳令等の非常事態、及び準ずる状況 |
| 操業停止、事務所閉鎖、公的機関や取引先への通知(危険度低位段階での事前通知は有効)、銀行資金の移転、経営上の重要物(帳簿、データー、原材料等)の保管室への入れ替え等保全、避難所の確保(ホテル、社宅)、代替事務所の確保、ドライバー・車両の確保、警察等とのリレーション、体制維持必要人員の選定、出国等々の実行 |
| 危険中位度 - 危険度拡大が認められる状況、政府公的機関の規制の発表段階 |
| 上記の準備、部分的事前実行、情報収集、連絡体制・通信体制の確認、交代勤務の実行、感染による疾病者の隔離、出向社員の帰国準備、家族の帰国、医療施設の指定、提携、航空チケットの確保、体制維持必要体制人員の策定等々 |
| 危険低位度、初期 - 会社一社では対応できない危険の発生が認められた段階 |
| 危機管理委員会などの召集、感染性疾病のケースも考慮すれば衛生面での注意喚起と消毒・予防行動の実施、危険発生の高い場所・雑踏などへの近寄りの制限など生活指導の実施、事務所・工場等での重要物の選定、緊急持ち出し必要物の選定、保管物・保管体制の検討、緊急用連絡体制の徹底、危険最高度に対しての対応検討 |
【6.まとめ】
通常、特に日本人幹部は国民性もあってか日常の企業活動に埋没しがちであり、現地幹部、スタッフ、他国の人々よりも却って各リスクに対して理解認識が少なく、動きが鈍い特徴があります。日本側(親会社等)の理解にも問題があるケースもあるでしょう。
いずれにしても良きにつけ悪しきにつけ日本流の延長線上で考える傾向があり、当地は危険の高い「外国」なのだという認識に立ち、継続的に企業活動上のリスクマネジメントを見直す必要があると思います。
執筆 タイセコムピタキ(株)
代表取締役 畠田 俊治
http://www.secom.co.th/

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